研究項目 A01 局在電磁波集積回路プロセスの研究

(1)「単一磁束量子局在電磁波集積回路プロセスに関する研究」

代表者:藤巻 朗(名古屋大学・工学研究科・教授)

研究の概要

低消費電力性と高速性を特徴としていた単一磁束量子(SFQ)回路では、近年、受動配線中をSFQに伴うインパルス信号を空間的に局在した電磁はとして伝播させ、光速で信号伝送させる技術が確立した。この技術を利用すると、さらなる高速化と低消費電力化がもたらされる。本研究では、その際の障害となていたおおきな占有面積の問題を解消し、高集積化に適した構造を提案・実証することを目的としている。具体的には、受動配線幅を従来の1/10のサブミクロン領域まで低減化するとともに、セルフオーバーダンプ特性を有する高性能ジョセフソン接合の作成プロセスの確立を目指す。

受動配線幅縮小の方針は確定しており、接合のインピーダンスの増加とそれに合わせた受動線路の特性インピーダンスの増加である。前者を実現するために、新しくNbN/Al/AlOx/Al/NbN構造を導入する。すでに同様の構造であるNbN/Nb/AlOx/Nb/NbN構造を持った接合は、接合の電極材料の特性を反映して高い性能が実証されている。本研究は、その特性を4-5Kの温度領域でも獲得できるように材料を変更したものである。この構造は、セルフオーバーダンプ特性を有することが期待され、外部しゃんと抵抗が不要となり、集積化にも大きく貢献する。本研究では0.5mm角程度の集積回路として現実的な接合面積での回路実証を目指す。

同時に層間絶縁膜の膜厚の低減化も必要であり、これにはSiO2とAl2O3の2層膜の採用を考えている。これにより、膜厚を現在の1/3まで低下させ、受動線路のインピーダンスを増加させる。現在は、SiO2のみで膜厚の低減化に取り組んでいる段階である。

最終的には、400GHzでのトグルフリップフロップ、200GHzでの遅延フリップフロップの動作を実証し、局在電磁波集積回路の可能性を評価する。

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(2)「二硼化マグネシウム超伝導接合技術の確立」

代表者:内藤方夫(東京農工大学・共生科学技術研究部・教授)

研究の概要

本研究課題は、2001年に発見されたMgB2(Tc~40K)を用いたトンネル型のSIS (Superconductor/Insulator/Superconductor)接合の作製技術を確立し、「ポストニオブ」超伝導エレクトロニクスの基盤を築くことを目的とする。

MgB2は、銅酸化物に比べてTcは低いが、少元素数、超コヒーレンス長、弱異方性、微細加工可能といった利点を有するために実用材料として有望視されている。また、申請者らのこれまでの研究から、従来の金属系超伝導体と同等の高品質ジョセフソン接合の作製が可能であることが示唆されている。 MgB2を用いた超伝導接合技術が確立すれば、20Kで動作する一連の超伝導デバイスが作製できる。また、SIS接合を用いた高周波デバイスの動作周波数領域は超伝導ギャップに比例するから、Nb系の動作周波数領域が700GHz以下であるのに対し、 MgB2では3.5THzまでの高周波動作が期待できる。

SQUID(Superconducting QUantum Interference Device)やSISミキサといった1~2接合で済む超伝導デバイスには即戦力になるばかりでなく、電波天文用X線検出器や10Bの大きな中性子捕獲断面積を利用したボロメータ型中性子検出器への応用の可能性も視野に入る。さらに、SIS接合作製技術が成熟すれば、集積化も可能となり、超伝導デジタル応用の道も探ることもできるであろう。「Medium-Tcエレクトロニクス」ともいうべき分野が拓けることが期待される。

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(3)「単一磁束量子による高スループット微細超伝導配線」

代表者:明連広昭(埼玉大学・工学部・助教授)

分担者:田井野徹(埼玉大学・工学部・助手)

研究の概要

単一磁束量子を情報担体とした単一磁束量子集積回路は、ジョセフソン接合の高臨界電流密度化とそれに伴う微細化によって200GHzにせまる動作が期待される。これに伴い、超伝導配線の線幅と特性インピーダンスは、現在の40mm弱、 2W強からおよそ2mm、 10Wになると予測される。この超伝導配線を実現するため、1)上下に接地導体を配した対象型ストリップ線路、2)誘電体をSiO2から誘電率の高いAl2O3などに変更したマイクロストリップ線路、3)クロストークの軽減効果の期待できる同軸型線路などについて設計・試作および評価を行い、設計技術研究班との共同研究により微細化と高スループット化に対応した超伝導配線技術を確立する。また、MCM化に対応するためにインピーダンス整合のとれた微小なバンプ構造などについても研究を行う。

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