研究項目 A02 局在電磁波集積回路設計技術・システム研究

(1)「局在電磁波による高速信号伝送を利用した単一磁束量子高速フーリエ変換回路の研究」

代表者:中島康治(東北大学・電気通信研究所・教授)

代表者:小野美武(東北大学・電気通信研究所・助手)

研究の概要

単一磁束量子を情報担体とした論理回路はサブテラヘルツ領域でのゲート動作周波数を有し、システムレベルで100GHzを超える回路を提供する有望な回路である。しかしながらデバイスの高速化により、デバイスの動作遅延とゲート間の信号伝送遅延が同程度の遅延を持つようになり、デバイスの高速化だけではシステム速度を増加させるのは困難な状況になりつつある。これまでの単一磁束量子回路では、信号伝送をジョセフソン伝送線路(JTL)により行っている。 JTLは能動線路であるため、磁束量子信号を減衰させることなく信号伝送が可能であり、信頼性の高い信号伝送を行うことが可能である。しかしジョセフソン接合のスイッチング遅延を伴うため、長距離の高速伝送が不可能であり大きなシステムの高速化に際しボトルネックとなっている。そこで、導波路配線中の局在電磁波を信号伝送に用いたシステム構築を目指すのが本研究の趣旨である。信号処理プロセッサの応用として最もインテンシブな動作が要求される分野のひとつに、2次元高速フーリエ変換(FFT)処理を必要とする分野が挙げられる。近年のマルチメディア情報の信号処理においてFFTは有用な基本アルゴリズムであり、特に認証・高精度のFFT演算は今後ますます重要な処理になるものと考えられる。また、X線回折による分子構造解析などの分析処理においては、高速・高精度のFFT演算は常に要求される需要がある。

そこで我々は、SFQ回路によるFFT回路に局在電磁波信号伝送を適用し、高速な信号処理回路の構成を行うことを研究目的とする。これまでに我々は、磁束量子のパルス的な性質を生かした高速パイプライン乗算回路の提案を行い、高速フーリエ変換回路に必要な乗算・加算・減算の各ブロックを設計し、シミュレーションによる性能評価と集積化チップによる実測を行ってきている。各々の演算ブロックの信号伝送に局在電磁波を用いた回路により、高速フーリエ変換回路の基本ブロックである2点DFT回路を数値解析・回路設計・集積化チップによる実測によりその性能評価を行う。さらに他の研究グループとの有機的な協力も行い、高い臨界電流値を持つ接合の適用によりプロセッサの100GHzオーダーでの動作周波数を目指した研究を行う。

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(2)「局在電磁波配線を利用した単一磁束量子論理ゲートの研究と高速信号処理回路への応用」

代表者:吉川信行(横浜国立大学大学院・工学研究院・教授)

研究の概要

局在電磁波による高スループット信号伝送を利用することにより単一磁束量子論理回路(SFQ回路)の性能を飛躍的に向上させることができる。この新技術は、SFQ回路の設計の柔軟性を増し、従来の配線に制限された集積回路設計法から配線の高速性や高スループット性を積極的に利用した設計法へと回路アーキテクチャの面でも新たなパラダイムシフトをもたらす。以上により、CMOS回路ではなしえない新たなサブテラヘルツ集積回路の領域が切り開かれるものと期待される。

本研究では、局在電磁波配線をりようしたSFQ回路を実現する上で銃砲な研究課題であるSFQ論理ゲートの最適設計法について研究を行う。これによりSFQ論理ゲート間を超伝導伝送線路で直接配線するための基本技術を確立する。以上を達成するためにSFQ論理ゲートと超伝導伝送線路との間の反射低減方法、ならびに伝送線路に接続されたSFQ論理ゲートの最適設計法について検討を行う。更に、以上の設計手法をベースとして本領域で共同してSFQ論理ゲートの標準セルライブラリを形成し、設計資産の共有化を図る。研究の後半では、開発したセルライブラリを利用して信号処理回路の開発を行う。具体的には、X線CTで必要な画像再構成のための高速積和演算回路を試作し、高速演算処理のデモンストレーションを行う。

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(3)「局在電磁波配線を用いた単一磁束量論理回路の設計および設計支援に関する研究」

代表者:高木一義(名古屋大学大学院・情報科学研究科・講師)

分担者:高木直史(名古屋大学大学院・情報科学研究科・教授)

研究の概要

単一磁束量子デバイスを用いた論理回路は、パルスの有無で論理を表現すること、また、スイッチングが非常に高速であることから、その性能を引き出すためには、従来の半導体集積回路とは異なるアーキテクチャに基づく論理設計が必要となる。また、大規模回路の設計のためには、計算機による回路設計支援が不可欠である。本研究では、新たに確立されつつある電磁波配線技術を前提とし、単一磁束量子論理回路の論理設計およびレイアウト設計を行い、本デバイスに適したデータ伝送・処理の方式を示すことを目的とする。また、従来人手で行ってきた設計のノウハウを統合し、論理設計支援および設計自動化の手法を確立することを目指す。

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(4)「超伝導多層導波路の高密度三次元設計と評価」

代表者:水柿義直(電気通信大学・電気通信学部・助教授)

研究の概要

超伝導集積回路においては、超伝導グランドプレーン上に超伝導ストリップラインを配置する高周波導波路が用いられている。その基本構造については1970年代に解析されており、以来、超伝導集積回路における基礎設計技術として使用されてきた。しかしながら、数戦ものデバイスが集積された超伝導回路が実現されている現在においては、信号導波路間、また信号導波路と電源ラインとが近接して配置されてきており、従来用いられてきた基本構造のモデルだけでは対応できなくなっている。また、さらなる大規模集積化においては超伝導導波路を多層構造にする必要があるが、その設計手法についてはまだ確立されていない。これまで、我々は多層導波路の簡単なモデルとして三次元的に配置された超伝導導波路間の相互インダクタンスについて数値計算による見積もりを行っており、実験による測定結果と良い一致を得ている。そこで本研究課題においては、超伝導多層導波路の高密度三次元設計技術を確立するため、まず数値計算手法に改良を施し、それによる超伝導多層導波路の物理パラメータの抽出と実験による検証を行う。次に、得られた結果を利用して、現在利用可能な超伝導集積プロセスを用いて超伝導多層導波路を設計・試作し、その特性を評価する。また、本特定領域プロセス研究班と連携し、次世代プロセス技術を利用した高密度導波路の設計・試作とその評価を行い、将来の超伝導集積回路における多層導波路三次元設計技術を確立する。

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